最愛の花
- 著者:
- 藤波ちなこ
- イラスト:
- Ciel
- 発売日:
- 2016年02月03日
- 定価:
- 682円(10%税込)
あなたのためなら悪魔にでもなる。
病弱な公女ソフィアと、周囲から忌み嫌われていた従騎士ドラーク。追いやられた“ 廃宮”で出会った二人は、やがて惹かれあっていく。だがある日突然、引き離されることに。「必ず戻る。それからは二度と離れない」そう誓うドラークだったが、六年後に再会した彼は、有能な騎士となり、ソフィアの妹の夫となっていた。それなのに、彼は強引にソフィアを組み敷き、欲望を放ってきて……。「あなたは何も知らなくていい」と告げ、ソフィアを抱き潰すドラークの真意は!?
ソフィア
病弱な上、日の光で火傷してしまうため、家族の暮らす宮殿から離れた“廃宮”で静かに暮らしていた。
ドラーク
ソフィアの妹に仕えるはずだったが、罪の色といわれる赤色の髪のせいで拒絶され“廃宮”にやってきた。
「……っ、ん……っ」
熱い舌がソフィアのきつく閉ざされたままの唇を強引に割り開く。彼の手はいつの間にかソフィアの後頭部をがっちりと捉えて、顎を閉じられないように押さえていた。
濡れた肉厚な舌がソフィアの歯列を辿り、怯えて縮こまる小さな舌を絡め取る。
あまりに一方的で乱暴なそれは、ソフィアの思い描いていたくちづけではなかった。
なのに、彼と触れ合った唇から背筋にかけて、ぞくぞくとしたものが下りていく。熱いような、冷たいような、今まで味わったことのない感覚だった。
気が遠くなるほど長い時間をかけて、ドラークはソフィアの口腔を味わい尽くした。ドラークの気が済んだ頃にはソフィアはきつい抱擁と甘い蹂躙の余韻に身体をぐったりさせ、手足に力が入らなくなってしまっていた。
腰が抜けて立てなくなっているソフィアを、ドラークは軽々と横抱きに抱え上げる。彼は部屋の奥の寝台に向かっていた。
ゆっくりと敷布の上に下ろされる。
少し遅れて彼が隣に上がってきたとき、ソフィアはその振動で我に返った。
ドラークは閨のことをしようとしているのだ。
寝台の上で手をついて起き上がり、ソフィアは声をあげた。
「やめて、ドラーク、どうして──」
ドラークがソフィアの太ももの上に乗り上げてくる。
ソフィアは再び半身を倒され、たやすく組み敷かれてしまった。天蓋の作る闇の中で目を凝らすけれど、見下ろしてくる彼の顔は見えない。
「……訳を話せば、あなたは俺の目の前から消えてしまうでしょう。もうそんなことには耐えられない」
ドラークがソフィアの上に馬乗りになったまま、礼装の上着を脱ぎ捨てた。シャツの首元を緩め、袖口を捲る。そして、両手に着けていた手袋を忌まわしいもののように抜き取って寝台の外に放った。
それが獲物を捕食するための準備のように見え、ソフィアは大きく息を呑む。
「ご存じなかったでしょう。俺がずっとあなたにこうしたかったなんて」
彼の左手がソフィアの顔に直に触れた。ひきつれたような火傷はそのままだった。
覆い被さるようにくちづける一方で、ドラークはソフィアの着衣に手をかけてくる。質素なドレスの背中に手を入れ、紐を緩める。胸元がはだけて鎖骨が露わになった。
羞恥にソフィアの頬が熱くなる。前を隠そうと身をよじると、かえって彼に隙を見せることになり、ドレスを肩から引き下ろされてしまった。
「……っ、あ」
ソフィアは思いがけない感触に声を漏らす。彼がソフィアの首に顔を寄せ、唇を這わせてきたからだった。濡れたものが首筋を伝い、肌を下に辿っていく。温かい唇が乳房の先端をかすめた瞬間、ソフィアは魚が跳ねるように身を震わせた。
同時にドレスの裾に手を入れられ、太ももに触れられる。
そんなところを男性に触らせるなんて、ソフィアには考えられないことだった。
熱く乾いた指に秘めた場所を暴かれながら、桜色に色づいた胸の頂を吸われ舐めしゃぶられ、未知の感覚が全身に広がっていくのがわかる。そそけ立つような違和感とともに甘い痺れが生まれてきた。
「やめて──、やめて、ドラーク……」
混乱したソフィアの抵抗も、彼にとっては何の妨げにもならなかった。乳房の先端を含んでいた彼が顔を上げ、情欲を灯した目でソフィアを見つめる。
「やめたら、あなたは俺から逃げるでしょう」
ソフィアはこくりと喉を鳴らした。彼の言うとおり、今にも寝台を抜け出して、闇に乗じて彼の前から姿を消したいくらいなのだ。
「だから、こうするしかないんです。あなたを俺に繋ぎとめておくためには」
足から腰にかけての肌を、節張った大きな手が撫で回す。下着をかいくぐった指先が最奥に忍び込んできた瞬間、ソフィアはびくりと全身を震わせた。
彼の指が柔らかな和毛を?き分け、繊細な動きでそこに触れた。確かめるように二、三度ゆっくりと襞を撫で上げては宥めるように指を下ろす。
耐えがたい感触に、ソフィアは全身を強張らせてぎゅっと目を瞑った。
感覚を閉ざそうとするソフィアを許すまいというように、ドラークの指がひときわ敏感な襞の合わせ目を探り当て、刺激する。彼が指の腹を円く揺らすように動かすと、得も言われぬ甘美な疼きが腰のあたりに溜まって、ソフィアに声をあげさせた。
「ヤ……、あっ──」
媚びるような自分の声に我に返る暇もなく、ドラークの残酷な手に翻弄される。
「悦いのですか」
花芽は懇ろに転がされるうち、彼の与えてくれる刺激をより強く受け止めようとでもするかのように、硬くしこっていった。
「やぁ……、やめて、こんな……っ、ぁ」
「あなたのように清らかな方でも、快楽を感じるんですね」
「──っ」
彼が自分に与えているのは快楽なのだ。自分たちは絶対にこんなことをしてはいけない間柄なのに、ドラークは易々と法を踏み越えている。異母妹と結婚した男に抱かれるなんて、ましてやそれで悦楽を得るなんて、決して許されはしない。
ソフィアは両手で弱々しく顔を覆った。零れそうな涙と、悦びによって朱に染まる顔を彼に見られまいとしたのだった。
「隠さないで」
強い腕がソフィアの両手をまとめて捉え、頭の上に縫い止めた。それなのに、ソフィアの下半身を嬲る手は決して止まらなかった。敏感な蕾を揉み転がし、優しく擦る。
「あ、あぁ……、いや、おかしく──」
ねっとりとした悦楽が糖蜜のように全身に流れ出し、ソフィアの思考まで侵食していった。心地よい、もっと続けてほしい、とまで考えだす。
「おかしくなっていいんです。もっと気持ちよくなって、他の誰にも見せたことのない顔を見せてください」