軍服の衝動
- 著者:
- 富樫聖夜
- イラスト:
- 涼河マコト
- 発売日:
- 2015年12月03日
- 定価:
- 682円(10%税込)
ごめんね、今から君を奪うよ。
夜会で媚薬を盛られた侯爵令嬢のライザは、危ういところで別の男性に助けられ、そのまま一夜をともにしてしまう。媚薬の影響でその「恩人」が誰なのか思い出せないライザだったが、彼との夜が情熱的で幸せだった感覚は残っていた。そんなある日、王妃候補にライザの名が内々にあがる。候補から外れたい彼女は「恩人」を探して恋人のふりをしてもらうことを思いつき、軍の情報局の局長フェリクスに協力を求めるのだが、彼はある条件を出してきて――。
ライザ
侯爵令嬢。浮気性な父と、そんな父に無関心な母とを見て育ったため、結婚に夢がもてないでいる。
フェリクス
伯爵家の次男で軍の情報局の局長。国の英雄でもある。ライザのことが気になっているようだが…?
「や、やめっ……!」
差し込まれた手が両脚の付け根に伸ばされるのを感じてライザは慄いた。
──本当に? 本当に調べるつもりなの?
「やめて、グローマン准将!」
「大丈夫。調べるだけだ。君は知りたいんだろう?」
「だからって……!」
「道具が手元にないから触診するだけ。そんなに時間はかからないよ」
フェリクスの指先がライザの女陰を覆う柔らかな茂みに到達する。ライザはびくんと身体を揺らしながら、身体が妖しくざわめき出すのを感じていた。
「だめっ……!」
大声を出しそうになり、ライザは慌てて口を引き結ぶ。
手を封じられ、その場から動けないライザはせめて腰をずらしてフェリクスの手を避けようとした。けれど、腰を浮かせた途端、フェリクスの指を奥に導く結果となってしまう。
「……ふぁ……!」
柔らかな茂みを通り過ぎ、指先が割れ目に触れる。初めてそこに感じる他者の指の感触にライザの背筋にぞくっと震えが走った。下腹部が重く痺れ、奥から何かがとろりと溢れてくる。
「あっ、うそっ……!」
なぜ今ここで濡れてしまうのだろうか。自分が信じられなくて、ライザの顔が羞恥に赤く染まる。けれど、蜜はあとからあとから染み出してくる。触れられているだけなのに。まだフェリクスは指を動かしてもいないのに。
──このままじゃ……!
「っ、手を放して!」
フェリクスは、すぐにライザの淫らな反応に気づいてしまうだろう。その前に何としてでも止めなければ! ライザは声を荒らげた。どこか切羽詰まった口調になってしまうのはどうしようもなかった。
「あなたなんかに調べてもらわなくても結構よ! 今すぐその手を放しなさいよ、このみつあみ男!」
けれど、相手はライザのそんな憎まれ口には慣れている人間だった。怯む様子もなく、それどころか微笑みすら浮かべて言う。
「知ってる? 君に『みつあみ男』って言われるの、案外気に入っているんだってこと。大丈夫だ、そんなに時間はかからないから」
「やっ……!」
触れているだけだったフェリクスの指が意志を持って動き始める。人差し指がふっくらした花弁の縁をすっとなぞったかと思うと、すぐに蜜口を探った。
「うっ……!」
ぞくりと背筋に何かが駆け上がる。次に羞恥のせいか、全身がかぁと熱くなった。秘められた入り口にはライザの奥から染み出した蜜がすでに溢れていて、しとどに濡れた彼の指がくちゅっと卑猥な粘着質の音を立てた。
「あ、いや……触らないで!」
こんなにも濡れてしまっていることを、一体彼はどう思うだろう──そう考えると消えてしまいたくなる。悔しさと恥ずかしさで視界が涙で滲んだ。
泣きそうなライザの表情を見て、何を考えているのか分かったのだろう。フェリクスは宥めるような口調で声をかけてくる。
「気にすることはないよ、ライザ。これは防衛本能だ」
「防衛……本能?」
「そう。異物を感知して、その異物から身体を守ろうと反応しているだけ」
──そうなの? そういうものなの?
ライザにはよく分からない。けれど、あの夢を見た直後以外でこんなふうになるのは初めてで、自分の身体が男性に対して淫らに反応してしまうのだと思うより、フェリクスの言葉を信じてしまいたくなった。
「だから気にすることはない。自然なことだし、これは君を辱めるためのものじゃない。単なる医療行為だ」
「医療……行為……」
涙に滲んだ目で瞬きを繰り返したあと、ライザは跪いたまま自分を見上げるフェリクスを見つめた。
ここでフェリクスがあのカーティス伯爵家の嫡男のようにイヤらしい目で見ていたら、ライザは人に知られるのを覚悟で大声をあげて彼の行為を阻止していただろう。けれど、フェリクスの目は酷く冷静で、他意があるとは思えなかった。
それどころか、その水色の瞳を見つめていると、恥ずかしさも一瞬忘れて、彼に身を委ねてもいいという気になった。
「わ、分かったわ。あなたに任せるから、さっさとして」
小さな声で応じると、フェリクスはにっこり笑った。
「いい子だね、ライザ。じゃあ少しだけ我慢して。なるべく早く終わらせるから」
いつものライザだったらここで「子ども扱いしないで」と言い返すだろう。けれど、このときのライザはなぜか素直に頷いていた。
「もう少し奥を探るけど、痛いときはすぐに言って」
入り口を探っていた指がぬぷっと音を立てて埋まる。
「んぅ……!」
一瞬、違和感を覚えてライザの息がつまる。指は第一関節のところまで埋まり、そこで動きを止めた。
「痛い?」
フェリクスの問いかけにライザは戸惑いながらも首を横に振った。
「……いいえ」
それは本当のことだ。濡れていたせいか、異物感はあるが痛みはない。ただ、ざわめきにも似た何かが、指が埋まった奥の方から身体中に広がっていくようで落ち着かなかった。
「どんな感じ?」
「……どんなって……む、ムズムズするというか……そわそわするというか……」
じっとしていられず、つい腰を動かしてしまいたくなる。けれど診察されている間は動くべきではないという思いから我慢していたライザは、フェリクスの口元が弧を描いたことには気づかなかった。
「痛みがないならもう少し奥にいくよ、でないと届かないから」
何に? と聞き返すことはできなかった。少しだけ埋まっていた指がぐっと押し込まれたからだ。
「んぁ……!」
肉の壁を太い指に擦られ、得も言われぬ感覚が押し寄せる。愉悦が背筋を駆け上がり、手足が震えた。力が抜けていき、閉じていた脚が無意識のうちにほどけていく。開いた脚の間にフェリクスがすかさず身体を押し込んで、それ以上閉じられないようにしたが、秘裂に埋まった彼の指に気をとられていたライザはそのことに意識が回らなかった。
蜜をまとった指が狭い隘路をゆっくりと拓いていく。おそらくライザを傷つけないようにするためだろう。その動きは慎重で、もどかしいほどだった。
やがて奥まで差し入れられたフェリクスの指が止まった。どうやらこれ以上は入れられないところまできたようだ。
「……あ……」
ドクドクと鼓動にあわせて脈打つ媚肉が、その異物の形を克明に伝えてくる。
──指が、入っている。他人の指が。かつては苦手だと思っていた男の指が。
ぶるっと身体が震え、その拍子にライザの胎内がフェリクスの指を無意識に締めつけた。そのせいでますます指の形をはっきり感じてしまう。
もちろんそんなライザの反応もフェリクスは分かっているはずだ。けれど、彼は何事もなかったかのように呟いた。
「この辺りかな? それとももう少し奥か……?」
差し入れられた指の先が何かを探るように動き始める。
「……んっ、あぁ……!」
ライザの唇から思わず声が漏れた。あの淫らな夢の中であげていたような、甘さを含んだ声だった。