致死量の恋情
- 著者:
- 春日部こみと
- イラスト:
- 旭炬
- 発売日:
- 2015年09月03日
- 定価:
- 660円(10%税込)
君への愛が、僕を殺す。
辺境伯の娘アマーリエは、初恋の人エリクをずっと想い続けていた。幼いころに出会い、家族同然に育った彼は、ある日、謎の病に倒れたアマーリエを救うため、どこからか特効薬を持ち帰ったあとで突然姿を消したのだ。それから六年、彼女の前にエリクとそっくりな騎士コンラートが現れる。彼をエリクだと確信して詰め寄るアマーリエだが、彼は迷惑そうに否定すると「よほど男が欲しいのですね」と嘲り、淫らなキスを仕掛けてきて……。
アマーリエ
辺境伯の一人娘。次期辺境伯として教育を受ける。六年前に突然姿を消したエリクのことを今も想っている。
コンラート
国王の側近で騎士。猫の目とも称される珍しい目を持つ。アマーリエのことは知らないと言うのだが……。
「やっ……! どうしてこんなこと……!」
エリクが酷薄にせせら笑った。
「どうして? 今更でしょう? 田舎者のご令嬢が、男女のお遊びに興味津々になるのは致し方ないでしょうし。英雄の娘とあって陛下に後押しまでされているとなれば、いくら私とて無下にはできない。渋々ではありますが、お相手役を務めさせていただきますよ。ただし、結婚まではお付き合いできませんが」
身体中の血が冷たくなった気がした。あまりの言い草だ。アマーリエの想いを拒絶しているだけではない。踏み躙り、弄ぶことを正当化しようとしている。
アマーリエは青ざめ、身を丸めた。あれほど厭っていたコルセットとドレスを腕と脇で挟み、必死に落ちないようにする。
「おやおや、そうすると背中ががら空きだ」
からかうように呟いて、エリクがアマーリエの背をつっと指でなぞった。コルセットを暴かれ、透けるような薄絹の肌着一枚だ。ほとんど直と言ってもいい肌の触れ合いに、アマーリエの身にぞくぞくとした震えが走った。甘い慄きだった。
エリクにも伝わったのだろう。クスクスと笑いながら、粟立った項をべろりと舐められる。
「……ッ!!」
声を上げそうになるのをすんでのところで堪えた。声を上げたくない。出てくる自分の声が、淫蕩な響きのものだと本能で分かったから。
淫婦だと、エリクはそう言った。
──これは、罰だ。
エリクはアマーリエを罰そうとしている。
蔑み、辱めることで、自分の怒りを表している。
──もう、私が近づかないように。
エリクの舌がちろちろと項を這い下り、耳の後ろを吸い上げる。身体が熱い。エリクが触れた箇所から順番に火を噴きそうだ。どくどくと心臓が早鐘を打つ音が、鼓膜を直に揺らす。
「手を離して」
低く掠れた声で命令される。自分が命綱のように脇でしっかりと抱えているドレスとコルセットを離せと言っているのだと分かり、アマーリエは首を横に振った。
そんなことをすれば、ドレスは床に落ち、透けたシュミーズとドロワーズだけというあられもない恰好を晒すことになる。
更にドレスを抱え直すようにするアマーリエに、小さく舌打ちが落とされた。だがすぐに気を取り直したように、くすりと笑われる。
「まぁ、いいでしょう。ではこちらから」
言いながら、エリクの片手がドレスの裾を捲り、中に侵入してきた。
「っ──」
仰天して身を固くするアマーリエの唇に、エリクが嬉しそうに口づける。
啄むように何度も唇を吸われながら、アマーリエは涙目になる。首を後ろに反らすようにする体勢が辛いからでもあるが、それ以上に、ドロワーズの上から太腿を這うエリクの手が、怖かった。エリクの触れ方は意外なほど優しい。柔らかく、アマーリエの肉の感触を確かめるように揉みしだきながら、アマーリエの脚を余すことなく触れていく。その動きは、妙な痺れを下腹部に生んだ。鍛え上げたアマーリエの四肢ですら、戦慄かせてしまうほど強烈な熱──これが快感だと、アマーリエはどこかで理解していた。
浅くなる呼吸を整えようとするが、エリクの舌が絡みつき、ままならない。
エリクがドロワーズの紐を解いた。解放感と共にアマーリエの裸体に忍び込んだのは、やはりエリクの手だった。
直に触れ合う肌と肌に、総毛立つ。
なだらかな腰の曲線を、大きな手が小さな円を描くようになぞる。やがて平らな下腹部に達すると、包み込むようにその掌を広げぴったりと密着させた。その熱い掌に呼応するように、下腹部が更に熱を持つ。
下腹部──今まさにじくじくと疼く場所が、子供を孕む器官であることに気づき、アマーリエは羞恥に頬を染めた。
この疼きこそ、愛する雄を求める本能なのだと分かってしまったから。
エリクの手がそろりと動きを再開し、アマーリエの茂みに侵入する。
アマーリエは身悶えしたが、背に張りつくように覆い被さるエリクが逃がさなかった。
柔らかな茂みを?き分けるようにして、エリクの指が秘めた場所を探る。
密着する互いの身体から出る熱気で、部屋の空気が粘度を増したように思えた。