荊の束縛
- 著者:
- 夏目あさひ
- イラスト:
- 白崎小夜
- 発売日:
- 2015年06月03日
- 定価:
- 682円(10%税込)
苦しみも悦びも、僕が教えてあげる。
幼い頃、母の再婚をきっかけに子爵家の養女となったレティシア。自分を溺愛してくれる美しくて優しい義兄フェリクスに心酔する彼女は、深夜、彼から与えられる濃密な口づけも、ほのかな罪悪感とともに受け入れていた。だがその秘密の触れ合いは次第に過激になっていき、ついには純潔をも奪われて……。血のつながりがないとはいえ兄妹での交わりは許されない。しかしある日、二人の禁忌の関係が思いもよらぬ人物によって暴露され――!
レティシア
幼い頃、母親の再婚により子爵家の養女となる。フェリクスに溺愛されて育ち、外の世界をほとんど知らない。
フェリクス
義理の妹であるレティシアを溺愛。自身の友人であるポールと仲良くするようレティシアに言うのだが……。
「ねえレティ。キミは誰のものだと思う?」
紐で結われた手首をフェリクスにつかまれ、体の向きを変えられた。そのまま抱きかかえられて、ベッドへと連れていかれる。軽く投げ出されて深く沈み、薔薇の深い香りが鼻孔をくすぐった。
「や、やだ……」
目を見張る。手首を縛るベルベットの紐の先をつかむと、フェリクスはベッドフレームに結びつけてしまった。逃れられなくなったレティシアを跨いで組み敷くと、彼は蠱惑的にほほ笑む。
フェリクスのこんな表情はこれまで見たことがなかった。ブローチの宝石よりもはるかにレティシアの心をつかんで離さない双眸から視線をそらせないでいると、夜着の前を裂かれた。
喉の奥から声にならない音がこぼれる。兄が突然こんな行動に出る理由がわからなかった。
「やめて、フェリクス」
「どうして? ポールのほうがいいから?」
「なにを言ってるの……?」
兄の言葉が理解できない。
いや、本当はわかっていた。ありえないことだと無意識のうちに考えないようにしていたのだ。
フェリクスはポールに嫉妬している。レティシアを彼に渡したくないと思っているのだ。だがそもそもポールと親しくなるきっかけを作ったのは兄だ。どうして今さらそんなことを言うのか。
「あっ……」
今の状況をどう考えていいのかわからず混乱していると、突然胸元の突起をつままれ、予期せぬ刺激に体を震わせ声を漏らす。別荘で同じことをされたときには、羽根でなでるかのようなやさしい手つきだったというのに、どうしたのだろう。
いくらポールのことで嫉妬しているからといって、フェリクスがレティシアの嫌がることをするとは思えなかった。一瞬、恐怖に襲われるが、直後兄はレティシアの乳暈を指で捏ねて、もう一方に口づけた。
「んっ……は、ぁ……」
今度はやわらかな感触だった。だが慈しみ一色だったあの日とはなにかが違う。ひどく淫靡で昏い欲望の熱が、兄の指先から伝わってくる。
怖くてたまらない。今すぐ紐を解いて逃げたいと思っているのは事実なのに、一方で見たことのない兄の表情を知りたいとも感じている。
もともと今日は、フェリクスの帰りを待ちわびて熱を持て余していた。兄がほかの誰かに触れるくらいなら、レティシアを抱きしめてくれたほうが幸せだ。
「レティ。抵抗しないんだ?」
兄の言葉にレティシアは口をつぐむ。抵抗する理由なんてない。別荘のときにも抗う気なんてなかった。
沈黙は肯定として受け取られたようで、フェリクスは目を伏せると口元に笑みを刻む。長いまつ毛が瞳の色を覆い隠した。
「いいの? もう今までのようにはいかないよ」
「え……?」
フェリクスの指がレティシアの秘唇に触れる。胸の愛撫だけで十分に潤っていたようで、兄の指を拒むことなく呑みこんだ。
「あ、ああっ……」
今まで触れられていたところより奥深くへの侵入に、兄の真意を知る。『今までのようにはいかない』彼はそう言った。その意味がわからないほどレティシアはもう幼くなかった。経験から得たものではないが、フェリクスとの関係に悩み、恋愛小説などで性愛の場面を意識して読むうちに、おぼろげながら知識だけは身についていた。
「い、いやっ……」
拒絶ではなく、未知のものへの不安と羞恥だった。身を縮めて逃れようとすると、仰向けに拘束されて押さえつけられ、やわらかな唇がレティシアの唇に重ねられる。
深いものへと変わると思いきや、レティシアの上唇を軽く舌でなぞっただけで離れていく。お互いの姿さえろくに見えない暗闇なのに、彼の舌の赤さが鮮明に見える気がした。
本当に最後までするつもりなのかと心のなかで問いかけていると、再び唇を重ねられて今度は舌を差し入れられる。深い口づけで互いの唾液がまざりあう。麻薬のようにレティシアの常識や道徳を麻痺させていった。
「んっ……ふぅ……」
ようやく口づけが解かれたとき、レティシアの体は先ほどよりもさらに欲の熱を帯びていた。割れ目に二本目の指が押し当てられる。緊張してはいたが拒むつもりはなかった。まだ狭い自身の入口は二本目を迎え入れた。
はじめて男性を受け入れるときには痛みが伴うという。少しでも軽減させるための行為だとわかるから咎める気になれなかった。
こうしている間にも胸はさらされたままだ。兄の視線のせいか秘部への刺激のせいか、突起はいつもよりも赤く色づいていた。
フェリクスはいやらしい音を立てながら、何度も尖りに口づけ吸いあげた。右胸に満足すると今度は左へ、と緩急をつけながらときに舌でなぞり、軽く歯を立ててレティシアを翻弄する。
「やだっ、やだぁ……」
体が勝手に痙攣するのが恥ずかしい。乳首を刺激されるたびにじわりと下肢が疼いて湿っていく。そのたびに二本の指の抽送がなめらかになっていった。
下肢からあふれる蜜は、兄の手を汚してベッドにまで滴っていく。羞恥と快楽の狭間でレティシアは啼くことしかできなかった。
ふいに兄の手がレティシアの体から離れる。今さら小さな抵抗など意味をなさないとわかっていても、彼に背を向けて顔を隠さないと恥ずかしくてたまらなかった。
「もういいかな」
静かな声だった。背後から響いたフェリクスの声に振り返ろうとするより先に、肩をつかまれ、ベッドに仰向けに戻される。
兄の服装も乱れていた。普段は隙を見せないせいか、今はいつになく妖しげな色気を孕んでいる。
「ねえレティ。念のため聞いておくよ」
言いながら、兄はレティシアの体を跨いで溶けたままの秘部に熱い楔の先端を押し当てる。
「や……」
「貴族の娘が純潔を失う。この意味がわかるかい?」
冷笑とともに残酷な言葉を吐き捨てながら、熱く硬いものを濡れそぼつ膣口に押し当ててきた。
言われなくてもわかる。レティシアは今後、嫁ぐあてがなくなる可能性があるということだ。
いずれはフェリクスのもとを離れて、自分の意思に関係なく他家へもらわれていくのだと思っていた。
その日を想像するたびに寂しくて、身を引き裂かれるような思いをしたものだ。なぜ悲しかったのか、今なら理由がわかる。
「わかるわ……」
兄の目を見て答えた。彼は意外そうに双眸を細めると、無表情でレティシアを見下ろしてくる。
「これでポールと恋人ごっこをし続けるのも難しくなると、わかっているのかな」
わかっている。あえてうなずく気にはなれなかったが、レティシアの本心はひとつだ。どこへも行きたくない。離さないでほしい。つかまえていてほしかった。
フェリクスこそ、生娘の純潔を奪ってしまえば逃れられない責任が生じることを知っているのだろうか。
フェリクスはレティシアの視線を受けて、どこか満足げに口元だけに笑みを浮かべると、押し当てていた杭をためらうことなく体内に埋めてきた。