執事の狂愛
- 著者:
- 桜井さくや
- イラスト:
- 蜂不二子
- 発売日:
- 2015年02月02日
- 定価:
- 682円(10%税込)
私はあなたの一部になりたい。
貴族令嬢マチルダには、密かに思いを寄せる男性がいた。幼い頃、とある事故から身を挺して救ってくれた執事のキースだ。既に婚約者が決められていたマチルダは、家のために結婚を受け入れようとするが、ある日、その婚約者であるヴィンセントから理不尽な暴力をふるわれてしまう。助けに入ったキースは、駆け落ちを決意。お互いの気持ちを伝えあった二人は深く結ばれるのだが――。二人を憎むヴィンセントに居場所を知られてしまい……!
マチルダ
貴族令嬢。幼い頃からキースのことを慕っているが、家のため恋心を諦めようとしていた。
キース
マチルダ付きの執事。自分のことよりもマチルダのことを優先する。
「あっ」
足にドレスが引っかかり、それに気を取られているとコルセットが外されていく。
彼の手はまだ震えていたけれど迷いは感じられない。スカートを膨らませていたパニエは引き摺り下ろすように脱がされ、マチルダは戸惑いの声を上げた。
「キース、あの…、あっ」
しかし、キースの動きは少しも止まらない。最後に残ったドロワーズも瞬く間に取り払われ、驚くほど強引に裸に剥かれてしまった。
「マチルダ様、とても綺麗です……」
ひとたび脱がせてしまうと、キースは深くついた息と共に囁きを漏らす。
しかも敢えてマチルダから少しだけ距離を取り、裸になった姿を上から下まで見つめるものだから恥ずかしくて堪らない。居たたまれなくなってベッドの端に寄っていくと滑り落ちそうになってしまい、寸前で抱きかかえられた。
「大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさい」
間近に迫ったキースの顔に、マチルダの心臓が大きく跳ねる。
背中に触れる彼の手はとても熱くて、ジワジワと全身に熱が広がっていくようだ。見つめる眼差しも熱っぽく、抱かれるのは初めてではないのに、今ほど彼を男と意識させられたことはなかった。
「震えていますね」
「だってそんな目で見るから……」
「……目? 私はどんな目をしていますか?」
キースは僅かに眉を寄せて、マチルダをまっすぐ見つめながら問いかける。
そんな眼差しさえ熱っぽいのに、彼は自分がどんなふうにマチルダを見ているのか自覚がないようだった。
「教えてください。悪いところは全て直します」
マチルダが震えているから、彼は自分が悪いとでも思ったのだろうか。
首を横に振って彼に抱きつく。少し強引なのも、全身を舐めるように見つめられるのも、きっと慣れないから恥ずかしいだけだ。嫌なわけではないし、キースを怖いと思っているわけでもない。そんなことより、自分に非があると勘違いして彼が手を止めやしないかと、その方が気がかりだった。
「キースに直すところなんてないわ。好きなようにしていいの」
「好きなように…。初めての時もそうおっしゃっていましたね」
「そうね」
頷くと、キースは少しだけ目を伏せて考え込んでいる。
「キース?」
「あの、どちらかというと私はマチルダ様のいいようにしたいので、自分本位にするのはあまり気が進みません。ただその…、私も男なので多少の願望くらいはあります。それをしてもいいのでしょうか……」
「願望?」
「はい。たとえば、こういうことを」
「あっ」
キースは首筋に唇を押し当て、舌を突き出している。うなじから鎖骨にかけてキスをしながら肌を味わい、声を上げるマチルダの反応をじっと窺っていた。
「…嫌ですか?」
僅かに顔を赤らめた彼と目が合う。
はっきりと言葉にはしないが、どうやらマチルダの身体を舐めたりキスをしたいと言っているらしい。恥ずかしいとは思うが、最初に抱かれた時もこれくらいはされている。わざわざ同意を求めるほどのこととは思えなかった。
マチルダは首を横に振ってキースの頬に唇を寄せる。すると、少しホッとした様子で彼が微笑んだので、胸がきゅうっと痛くなった。そんなに慎重にしなくていいのに、拒むつもりなんてないのだから。
「もし嫌だと思ったらおっしゃってください。そこで止めますからね」
「ん、あ…っ」
啄むようなキスを何度かして、もう一度首筋から鎖骨の辺りに唇が押し当てられる。
その間、指先はマチルダの胸に辿り着き、初々しく色づいた乳首を柔らかく転がしながら大きな手のひらでそっと包み込まれた。
「あ、ん」
甘い声を出すと、キースは僅かに息を呑む。
指先で反応を確かめながら肌に舌を這わせてマチルダの様子を窺う。そのうちに特に反応してしまうのが胸の突起だと分かったらしく、今度はそこに唇を寄せ、濡れた音を響かせながら観察するような眼差しを向けられた。
「ん、んっ、っは」
自然と息が上がり、徐々に身体が熱くなっていく。
キースの舌は強弱をつけながらマチルダの乳房を弄んでいた。その刺激はしばらく続き、次第にそれをもどかしく感じ始めると脇腹や腹部を手の甲で撫でられる。骨張ってゴツゴツした感触にぞくっとして身体がびくついた。
「あっ、あ、あぁ…っ」
マチルダはくすぐったさに似た刺激に身体をくねらせる。
その動きに合わせながら、硬く尖らせた舌先が胸から脇腹へ向かっていく。手の甲で撫でられるのとは違う感触に更に反応が大きくなり、正体の掴めないもどかしさを募らせていった。
「ああっ、んっ、やぁあっ」
けれど一際甲高い声を上げたところで、キースはピタッと動きを止めてしまう。
まさか嫌がっているとでも思ったのだろうか。マチルダは息を乱し、腹部を撫でていた彼の手に触れ、痛くないよう引っ掻いてその先をねだった。動きが止まったことで、もどかしさが切なさに変わってしまっていた。
「や、キース、キース…っ!」
キースは僅かに息をついて微笑を浮かべ、再びマチルダの肌に唇を押し当てる。
脇や腹部に何度もキスを落とされ、左の骨盤の周辺を固く尖らせた舌が行き交った。
その様子をじっと見ているマチルダの視線に気づき、彼は美味しそうに肌を舐めながら口角を引き上げる。太股を撫でていた手は身体の中心へ忍び、指先で優しく陰核を撫でられた。
「ん、あぁっ!」
「マチルダ様、分かりますか? 最初の時と全く違うんです」
「は、あ、あっ、あ、キースっ」
くちゅ、と卑猥な音が部屋に響く。
指が中に入れられたのはすぐに分かったが、それほどの違和感がなかったのが驚きだった。前はもっとピリッとした痛みがあったのに、今はそういう感じとは少し違う。出し入れを繰り返される度に濡れた音が激しくなり、ますます切なさが募っていく。
「聞こえますか? どんどん溢れてくるんです」