愛玩王子と姫さま
- 著者:
- 秋野真珠
- イラスト:
- gamu
- 発売日:
- 2015年02月02日
- 定価:
- 682円(10%税込)
ねえ、僕を可愛がってよ。
成人を迎えると同時に女王となり、結婚を急かされていたアリシュ。恋愛は諦めていたが、大好きな絵本に出てくる騎士に密かに憧れてもいた。そんな彼女の前に騎士とそっくりな理想の男性イヴェルが現れる。異国の王子だという彼は、アリシュのことを「姫さま」と呼び、「ペットにしてください」と言ってきて……。自由奔放な彼は、夜の寝所に窓から侵入し、アリシュにも無遠慮に触れてくる。強引な彼に身も心も蕩かされていくアリシュだが……!?
アリシュ
成人し、女王となる。清廉潔白で国民からの信望もあつい。絵本に出てくる「金の騎士」に密かに憧れている。
イヴェル
アリシュの前に突然現れた異国の王子。自由奔放な言動でアリシュを振り回す。
「この状況で寝ちゃうのか……」
苦笑するような声を上げても、もうアリシュは目を覚まさない。
腕に抱いた身体は自分のために誂えたような形をしている。重ねてみてよく解る。ぴったりとくっついて、間にある薄い衣服すら邪魔に思った。
イヴェルは上にのせたアリシュの重さを心地良く感じながらも、身体を入れ替えてゆっくりと寝台に転がした。白い敷布に広がる真っ黒な髪は、アリシュの白さを際立たせる。昼間の女王の衣装ではない。薄絹一枚のアリシュの姿は、休むには心地良さそうだが女らしい形をはっきりと見せつけている。
正装のときも感じたが、アリシュの身体は、やはり細かった。それでも女らしい曲線を描く身体は、イヴェルの欲望を強く動かすに充分なものだ。
胸は大きくは膨らんでいない。イヴェルの手に簡単に収まってしまうだろう。しかし細い腰から太ももにかけての丸みは、何度も辿ってしまうほど柔らかく丸い。腕もイヴェルの手が簡単に回ってしまうほど細いのに、二の腕の柔らかさは、思わず強く歯を立てたくなるくらいだった。
いや、アリシュの身体には、すべて舌を這わせて、咬みついてみたい。イヴェルは薄暗い燭台の光の下で、無防備に眠っているアリシュの姿を満足するまで眺めた。
伏せられた目元は少し赤い。涙を堪えていたのを、イヴェルは気づいていた。こんなものがアリシュの欲しかったものなのだと、簡単にイヴェルに教えてしまっている。
「危ないな、姫さま」
そもそも、女王の寝室へ突然現れた侵入者を見て、叫びもせず助けも呼ばす、抗わなかったことがまずおかしい。
その時点で、アリシュはイヴェルに落ちていると認めてしまっているも同然だ。
寝台の隣の机には、イヴェルの贈った手鏡が大事そうに置かれたままだった。寝室の、眠るすぐ傍まで持ってきているとは、アリシュにとってとても大切なものになったようだ。
それを見てイヴェルは目を細める。微笑んだようだが、笑っているわけではない。
「こんなのでよかったのかな?」
イヴェルは正直、ものに執着がない。何かを大切に持っているということがない。
旅立つときに母親から渡された手鏡は、「捨ててはいけない」と約束させられていたから持っていたにすぎない。
アリシュが望むなら、どんなものでも──それこそ国だって手に入れてあげる。
イヴェルはそう思ったからこそ、小さな手鏡ひとつを大切にしているアリシュに首を傾げたのだ。
しかしそんな無機質なものより、今はもっと大事なものがあるとイヴェルは視線を移す。
緩く上下する胸元を見ながら、それに触れないという選択肢はなかった。
「きーもちいい」
誰に止められることもない。想像していたままの胸に、躊躇うことなく触れ、ゆっくりと揉んでみる。意識はなくとも自然とつんとなる先端が薄絹を押し上げ、それに視線を奪われ目を細める。弧を描いた唇は、迷わずそこへ吸い寄せられた。
布の上から軽く吸って、その形を唇で楽しみ、腰帯を解いてあっさりとアリシュの素肌を晒した。
全身が、染みひとつない美しい肌をしているのは薄暗くても解る。眠るときは薄絹一枚だということを、イヴェルは知っていた。アリシュを隠すものはもう何もない。髪と同じ色をした陰毛は、慎ましくそこにあるだけで、さらにアリシュの大事な場所を強調しているようだった。
イヴェルはアリシュの身体から布のすべてを剥ぎ取り、人形のようにされるままになっている身体をもう一度抱きしめた。
「これは僕の。何度でも言ってあげる。どこにも逃げられないからね」
夢の中に声が届いて、イヴェルでいっぱいになればいいとその耳に囁いた。
抱きしめたアリシュに強く腰を押し付けても何の反応もないことが少しつまらないが、イヴェルはこの際腕の中の肢体を充分楽しむつもりだ。
柔らかなすべてに手を這わせて、欲望どおりに舌を這わせる。
アリシュのことを甘いと言ったのは嘘ではない。この白い身体は、どこを舐めても甘いと感じた。腰の上で思わず歯を立ててしまったが、アリシュは何の反応も示さなかった。胸のすぐ下や、太ももの内側、恥骨の上などに痕がつくほど吸い付いて、簡単に色が変わることを確かめた。
アリシュの身体で知らない場所はないように、全身を確かめてから長い髪を手で梳いて眠ったままの顔を見つめる。
「風邪を引いちゃうと困るから、今日はこのくらいにしとこうかな」
裸のままのアリシュに布団をかけてやってから、小さな頭を何度も撫でて、赤く色付いた唇に初めて自分から触れた。
啄むように唇を落とし、イヴェルは思わず微笑む。アリシュとの激しいキスを思い出したのだ。
「でも、もっと深いものを教えてあげるよ」
キスは咬みつくだけではない。舐めるだけでもない。
唇だけで、濡れてしまうほどにしてあげよう。
イヴェルはここにアハルがいたらまた注意されそうな顔になっているなと思いながら、名残惜しそうに何度もキスを落として、ようやく寝台から起き上がる。
そして、ここへ入ってきたときと同じように窓から音もなくするりと身体を滑らせて、闇夜に紛れていった。