蜜牢の海
- 著者:
- 西野花
- イラスト:
- ウエハラ蜂
- 発売日:
- 2014年09月03日
- 定価:
- 638円(10%税込)
どこまでも共に沈もう。
婚約者を亡くした瑠璃子のもとに現れたのは、小田切伯爵家の鈴一郎と春隆の兄弟。二人は瑠璃子の従兄弟で、兄のような存在でもあった。そんな彼らから、同時に結婚を申し込まれて……? どちらかを選べない瑠璃子に、鈴一郎と春隆は三人で交わる背徳の関係を提案する。息もつかせぬほどの愛撫、ささやかれる情熱的な愛の言葉――。繰り返される彼らとの淫蕩な時間は、無垢だった瑠璃子の心に変化をもたらし、やがて官能の海へと溺れさせてゆく。
瑠璃子
商家の娘。実の兄のように慕う鈴一郎と春隆から同時に求婚されて……?
鈴一郎
小田切伯爵家の当主。柔らかな物腰で異国の貴族のような雰囲気を纏う。
春隆
鈴一郎の弟。兄とともに貿易業を営む。男らしい魅力のある頼れる存在。
「……ふふ、可愛いね」
さんざん口の中を弄ばれ、吸われてぽってりと赤くなった唇を鈴一郎が指先でなぞる。
「今度は俺に口を吸わせてくれ、瑠璃子」
「あ……」
あまりの事に抗えなくなった瑠璃子の顎を捕らえ、今度は春隆の方を向かされた。すぐに濃厚な接吻が襲ってきて、鈴一郎とのそれで敏感になってしまった口の中の粘膜を春隆の攻撃的な舌で責められる。思わず甘く喘いでしまうほどに感じてしまった。
「あ…っ、あ、う」
くちゅくちゅという音が頭の中で響く。これは自分が出している音だ。そう思うと身体がカアッと熱くなり、肌がじんじんとき始める。
(変よ。私、こんな────、変に)
「ふぁ、あ…、だ、め…っ」
ようやっと抵抗の言葉が出た。いったい自分はどんな目に遭ってしまうのか。そしてそうなった時、この身体はいったいどうなるのか。何か、取り返しのつかない予感に苛まれ、瑠璃子はどうにか現実に戻りたいと、弱々しい手足でもがく。
「い……いけません、こんな……」
「どうして、瑠璃子。君だって、望んでいただろう。こうなることを」
「そんな……! そんな、こと…っ」
違う。私はそんな事を望んでなんかいない。
心の中で否定する自分に、もう一人の自分が囁きかける。
本当にそうだろうか。自分は昔から、誰かに攫われたいと夢想していたのではないだろうか。異国の絵物語のように、誰かに強引な力で、どこか遠くの別の世界へと連れていかれる事を。
(違うの。それはこういう事じゃないの)
だがそんな心の声が聞こえているかのように、彼らは甘い誘惑の声で囁いてきた。
「嘘はいけないぞ、瑠璃子。俺に触られた時、あんなに感じていたじゃないか。お前の肉体の底には、男を食らう妖婦がちゃんといるんだ」
「わ、私には、そんな、つもり……!」
否定しつつも、瑠璃子の言葉はしどろもどろになった。確かにあの時、自分は身も心も異様な興奮に包まれていた。春隆を相手にした時だけではなく、鈴一郎に抱き締められた時も。
「私達に身も心も委ねておいで。そうするのが、皆が一番幸せになれる方法だ」
「あっ」
鈴一郎の甘い声で耳元に囁かれると、身体から力が抜けていく。甘美な感覚は瑠璃子の全身を包もうとしていた。もう片方の耳も春隆に舌を差し入れられて、優しく嬲られる。激しく感じてしまった。
(抵抗できない)
幼い頃から憎からず思っていた彼らにこんなに官能的に求められては、瑠璃子にはもう抗う手立てなど残されてはいなかった。