ためらいの代償
- 著者:
- 藤波ちなこ
- イラスト:
- みずきたつ
- 発売日:
- 2014年06月02日
- 定価:
- 660円(10%税込)
愛という名の甘美な罰。
身寄りのないマリアは、国でも指折りの資産家であるハインツのもとへ嫁ぐことに。二十歳以上も年の離れた彼に快楽を教え込まれ、甘やかされ、妻として精一杯尽くすマリア。しかし、ハインツの息子マクシミリアンが初恋の青年だとわかり……。許されない想いを押し隠すマリアだったが、やがてハインツに気づかれてしまう。夫からの淫らなお仕置き、息子からの情熱的な求愛。二人の独占欲に絡めとられたマリアは、身動きがとれなくなって――?
マリア
赤ん坊の頃に捨てられ、孤児院で育った。ハインツに求婚され、妻となる。
ハインツ
国内でも有数の資産家。マリアのいた孤児院に寄付を申し出、彼女と結婚する。
マクシミリアン
ハインツの一人息子。隠居した父の仕事を継ぐ、有能な青年。
濡れた唇が耳の後ろからうなじにかけてを這う。
マリアは首を振る。もはや、自分が何を否定したいのかさえわからない。
「……違います……」
苦しい息の下からやっとそれだけ口にしたマリアを、ハインツは笑う。
「何が違うんだ。おまえは、マックスに恋をしてしまったんだろう?」
ハインツの吐息が肌にかかって、マリアはきつく目をつぶる。
「そんなこと……」
「あの子は優しいだろう? だが別に、おまえにだけ優しいわけではないんだよ。真面目だから誰にでも同じように接しているに過ぎない」
大きな手がマリアのガウンをくぐり、夜着にかかる。差し込まれた手は直にマリアの太ももに触れ、裾を捲りあげて腰から下を露わにした。強引な仕草は初夜のとき以来だった。いや、そのときより何倍も乱暴だった。
「未亡人や商売女と割り切って付き合っているからこそ、表ではああいうふうに振る舞えるんだ。あれはどんな女にも本気にはならない。愛せないんだ。……私と死んだ先の妻のせいなのだろうがね」
彼は左手でマリアの抵抗を封じながら、右手でマリアの腰から尻にかけての肌を撫でまわす。
「マリア、答えなさい。マックスを好きになってしまったんだろう? ひょっとしてもう、私の目を盗んで抱かれてしまったのかね」
マリアは首を振る。いつの間にか目から涙が溢れていた。
ハインツを裏切っていたことへの申し訳なさと、彼が豹変してしまったことへの恐怖。そして、自分の思いがとうの昔に彼に気づかれていたことへの惨めさと、けがらわしい思いを向けてしまったマクシミリアンへの罪悪感。全てがないまぜになっていた。
自分はハインツに嫌われ、なじられ、このまま要らないと捨てられてしまっても仕方がない。神の前での永遠の誓いを一年もたたぬうちに破ったばかりか、孤児院から引き取って家族として迎えてくれた恩を仇で返した。
けれど、万が一にも自分のせいでマクシミリアンがハインツに咎められたり、ふたりの仲に亀裂が生まれたりしてはいやだった。
だから、否定し通すしかなかった。
「……違います、好きになったり……あ、あっ」
彼のたくみな指が腰の下に忍び込み、前からマリアの敏感な花芯に触れる。そこをゆっくりと擦りあげられ、マリアは声をかみ殺す。嘘をつく後ろめたさに、身体がいっそう敏感になる。
「おまえの大切な神様は、息子に恋してはいけないと、そんな簡単なことさえ教えてはくれなかったのかね」
マリアははっと目を見開く。その言葉に、ハインツもまた神を信じてはいないということを思い知らされた。
「……わたしは、旦那さまのものです……」
泣き濡れた声で、マリアは訴える。
「マリア」
あきれたように名を呼ばれる。
「その台詞は、自分が私の妻でなければよかったと言っているように聞こえるよ」
背後で、ハインツが前立てをくつろげる気配がした。
彼は手で触れることなく、マリアの花襞を後ろから一息に貫いた。
「ああっ──」
圧倒的な大きさのものが入りこもうとするが、潤っていない内部は受け入れきれない。引き裂かれる痛みにマリアは耐えた。ハインツは苛立ちのままに腰を揺すり、声を殺すマリアを責め立てる。肉の花弁が彼の出し入れに合わせて中に巻き込まれ、ひきつれる。
ハインツはぎりぎりまで自分のものを引き抜き、一気に突き入れて、衝撃と痛みでマリアを苦しめた。
獣の交合のような格好で犯されながらマリアは耐える。いやだとも、痛いとも言ってはいけないと思った。黙って受け入れ、従順にしていたら、彼の怒りが解けるとマリアは信じ込んだ。
「おまえはほんとうに愚かでかわいいね。黙っているのは肯定でしかないのに」
だが、聞こえてきた彼の言葉に、それが逆効果だったと思い知らされる。
ハインツはマリアの奥深くまで腰を進めると、おもむろに激しい抜き差しを止めた。
彼に馴らされた膣内は既に幾分か濡れていて、擦れる痛みは和らいでいた。ついさっきまで苛まれていたはずの柔肉は、何もされていないのに、楔をやわやわと包み込み、締めつけることで自ら感じはじめてしまう。
「あ……」