妄執の恋
- 著者:
- 水月青
- イラスト:
- 芒其之一
- 発売日:
- 2014年01月06日
- 定価:
- 660円(10%税込)
誰にも触らせてないよな?
侯爵家の嫡男で騎士団に所属するエリアスには、三年前までの記憶がない。しかし任務で赴いた田舎町で、とある娘を目にした途端、なぜか涙が流れ出す。俺は彼女を知っている? 過去を知りたいエリアスは、ラナと名乗るその娘に話を聞こうとするが、彼女は強張った顔でエリアスを拒絶する。そんな中エリアスは、自分が血まみれで苦しむ夢と、彼女と幸せな一夜を過ごす夢を見て……。
三年前、いったい何が――?
エリアス
侯爵家の嫡男。三年前までの記憶が無い。ラナと名乗る娘に会った途端、涙が流れ…。
ラナ(?)
田舎町でエリアスが出会った娘。ラナと名乗るが実は…。
「外見が変わっても俺は俺だ。ノーラのことが好きな俺のままだよ」
「……そう。そうね」
何も変わらない、というエリアスの言葉が、ノーラを安心させてくれる。
そうだ。エリアスはエリアスだ。そう言ったのは自分なのになぜ不安になどなったのか。
ノーラが男らしくなったエリアスの頬に触れると、ひんやりとした感触が伝わってくる。
「冷たい……」
「ノーラが熱いんだよ」
言われてみれば、体がひどく火照っているような気がする。ぽかぽかとしているわけではなく、じんわりとした熱が体の奥から湧き出てくる感じだ。
意識したら、途端に体が疼き出した。覚えのある淫猥な感覚にノーラはひどく戸惑う。
どうして? こんな感覚、もうずっと忘れていたのに……。
そこまで考えて、ふと気づく。
ずっと忘れていた? どうして? エリアスと何度もしているのに、忘れるはずなんてない。
まるで長い間エリアスに触れていないような思考に、ノーラは首を傾げた。
「ノーラ?」
ぼんやりとエリアスを見つめるだけのノーラに、彼は目を細めて心配そうな顔になった。
「つらいか?」
つらくはない。ただ、エリアスが欲しい。
ノーラは首を振って大丈夫だと示し、ぎゅっとエリアスに抱き着いた。
「エリアス……して?」
自分から誘うなんて初めてだ。でもそれをはしたないと思う気持ちよりも、疼きをなんとかして欲しいという願望が勝った。
するとエリアスは痛いくらいに抱き締め返してくれた。しばらくして体を離すと、噛み付くように唇を塞いでくる。
すぐに舌が唇を割り入ってきた。ノーラはそれに舌を絡め、エリアスの熱を受け止める。
「……っ……ふぅ……」
お互いの舌が触れ合っただけでも体温が上昇するのに、ぐるぐると絡め合い吸い合って、更に熱くなる。
舌先で上顎を擦られると、腹部に力が入って、無意識に膝がすり合わされた。
「…んん……あぁん……」
まだ口づけだけだというのに、エリアスとしていると思うだけで上り詰めてしまいそうだった。ノーラの予感はそれからすぐに現実のものとなる。
舌先から根元まで丹念に舐められ、体が小刻みに痙攣し始めた。
ああ……もう……。
そう思った時だった。口腔にばかり意識を集中していたせいか、突然、大きく硬くなった猛りを太ももにぐりっと押しつけられ、驚くと同時に頭が真っ白になる。
「んんん……っっ!」
甲高く漏れた声は、エリアスの口の中に消えていった。ノーラは体を弛緩させ、ぼんやりとエリアスを見つめる。
どうしてしまったのだろう。こんなに我を忘れて感じたことなんて今までなかったのに。
ノーラが達したことが分かったのだろう、エリアスは額に、瞼に、頬に軽く唇を落とし、指で優しく首筋を撫でる。そしてふと何かを思い出したように、真剣な表情になった。
「なあ、ノーラ」
「な、に……?」
回らない舌で言葉を発して気づく。ひどく喉が渇いていた。
何か飲み物が欲しいとお願いしたくて口を開くと、それを遮るようにエリアスは言った。
「俺以外に触れさせてないよな?」
低く、押し殺した声だった。
ノーラは、彼の言っている言葉の意味が分からずに首を傾げる。
「もし俺以外の誰かがノーラを抱いていたら……俺はきっとそいつを殺してしまう。この三年、誰にも触らせていないよな?」
エリアスから発せられるぴりぴりとした緊張感が、ノーラの肌を突き刺した。それを痛いと感じる思考は今のノーラにはない。
とにかく、なぜエリアスがそんなことを言うのか不思議に思うだけだった。