逃げそこね
- 著者:
- 春日部こみと
- イラスト:
- すらだまみ
- 発売日:
- 2013年12月04日
- 定価:
- 660円(10%税込)
やっと、捕まえた。
乗馬が大好きな子爵令嬢マリアンナは、名門貴族のレオナルドに「馬にまたがる田舎者」と揶揄され、社交界から爪はじきにされてしまう。傷つき、王都から逃げるようにして故郷へ帰るが、何故かそこにレオナルドが現れ、結婚を強要される。あんな仕打ちをしておきながら、どういうつもり? 涙を堪えて睨みつけるマリアンナを恍惚の表情で見つめるレオナルド。逃げようとするマリアンナだが、捕らえられ、無理やり身体を開かれてしまい――。
マリアンナ
乗馬が好きな子爵令嬢。レオナルドから田舎者と揶揄され傷心し、故郷へ帰る。
レオナルド
名門貴族。
「お前は本当に可愛いね、マリアンナ。その、迷いながらも屈しない眼が、堪らない」
自分の中での葛藤に気を取られていたところに、揶揄するような声がかかり、唐突に太腿を撫でられてギョッとする。
「何をっ」
「何を? 決まっているだろう。私は新婚初夜の花婿で、お前は私の花嫁だ」
歌うような調子で囁き、レオナルドはベッドに放り投げられていた自らの夜着の腰ひもを抜き取った。抗うマリアンナの両手首に巻き付けて、ベッドの支柱に括り付ける。
「やぁっ」
「ホラ、これで逃げられない」
レオナルドはくつくつと喉で笑みを転がしながら、手の自由を奪われたマリアンナのシュミーズをあっさりと脱がせてしまう。最後の一枚を剥ぎ取られ、生まれたままの姿にされたマリアンナは、羞恥に泣き叫んだ。
「やめて! イヤっ」
「ああ、イヤだろうな、可哀想なマリアンナ。大嫌いな男に操を奪われるなんて。さぞや逃げたいだろうな」
マリアンナの上に馬乗りになったレオナルドは、マリアンナの細い顎を片手で掴んで自分に向けた。顔を近づけられ喚くのを止めたマリアンナに、唇が触れ合う寸前で囁く。
「でも、残念。逃がしはしない。──お前は、私のものだ」
それが押し付けるような尊大な物言いなら良かった。反射的に抵抗できていただろうから。
それなのに、その囁きは酷く甘く優しく、マリアンナの鼓膜を震わせた。
──どうして、そんな声で。
マリアンナは混乱していた。この男は、自分の大嫌いなあのウィンスノート伯爵だ。それなのに、自分を蔑み、貶め続けたその口で、どうしてこんな声で名を呼ぶのか。
まるで、マリアンナを慈しむかのように。
──やめて。
泣きたい気持ちでマリアンナは呻いた。
しかしレオナルドは優しくその頬にキスを落としていく。
「可愛い可愛いマリアンナ」
「……や、やめて……」
耳の奥に注ぎ込まれる優しい囁きに、ゾクゾクとした慄きが背筋を這い、マリアンナの感覚が煙っていく。手を縛られ下半身に乗りかかられ、身動きの取れない状態で、唯一抵抗を示せる声すら、弱々しいものになっていく。
びちゃ、と生々しい水音が大きく響き、耳介にぬめった感触がした。
「ひぁっ」
びくん、と頭を仰け反らせてマリアンナは嬌声を上げた。その反応にレオナルドが喉を鳴らす。
「ああ、ここが弱いのか」
嬉しそうにそう言うと、執拗に耳を舐り始める。
「ぁっ、んっ……だめ、くすぐった……んっ」
ぴちゃ、ぬちゅ、という水音が響く度、マリアンナの身体はビクビクと揺れた。
「くすぐったいだけ?」
面白がるようにそういうと、レオナルドはその手をマリアンナの乳房に這わせた。さして大きくもないマリアンナの両乳房を持ち上げるようにして揉み上げる。白く柔らかな肉は男の節くれだった指の力にあっさりと屈し、ぐにぐにと卑猥に形を変える。
「お前はどこもかしこも本当に可愛らしい……」
レオナルドは溜息と共にそう独りごちると、白い双丘の上に実った桃色の小さな実をパクリと口に含んだ。
「ぁあっ!」
思いもかけない場所が熱く濡れた感触に覆われ、初めての刺激に悲鳴を上げる。
「や、やめてっ! どうしてそんなこと……!」
身悶えしてやめさせようとするが、レオナルドは意に介した様子もなく、口に含んだ果実を赤子のように吸い上げる。
「ひ、ぁあっ、あ……!」
ちゅくちゅくと吸われ、更にもう片方を指で捏ね回されると、じんとした痺れが下腹部に生まれた。
──何だろう、この疼きは。
熱くて腫れぼったくて、じわじわと全身に広がっていくようだ。まるで血に入りこんだ毒のように。そう、これは毒だ。危険なもの、有害なもの。そう分かっているのに、どうしようもなく甘かった。
「ぁあ、だめぇ、も、やだ」
次第に快楽に酩酊していく身体を叱咤するように、マリアンナはイヤイヤと頭を振った。
「イヤ? そんな声を上げているくせに、嘘つきだな、マリアンナ」
「ほん、とに、やなのぉっ……」
嘘なものか。マリアンナは心からそう言っている。こんな、わけの分からない熱病のようなものに浮かされて、おかしくなる自分の身体が怖かった。
それなのにレオナルドは聞いてくれないだけでなく、更にその熱を煽ろうとさえしてくるのだ。
「嘘なものか。お前の身体はこんなに悦んでいる。ホラ……」
そう言いながら、レオナルドはマリアンナの下肢の付け根に手を滑らせる。
「ひゃあっ」
今まで誰にも触られたことがないばかりか、自分でもまともに触れたことのないような場所を触られ、マリアンナは仰天した。だがそんな狼狽など気にも留めず、レオナルドは身勝手に指を動かし始める。
「ああ、もう濡れている」
レオナルドが嬉しそうに言ったが、その意味を理解できないまま、マリアンナはその指の動きに感覚が集中していくのが分かった。指はマリアンナの花弁の割れ目を確かめるようになぞっている。ぴちゃ、という水音が聞こえて、更には触られている部分にぬるついた感触を認めて、マリアンナはギクリと身を強張らせた。