煉獄の恋
- 著者:
- 広瀬もりの
- イラスト:
- 三浦ひらく
- 発売日:
- 2013年09月04日
- 定価:
- 660円(10%税込)
みんな燃えてしまえばいい。
幼い頃、山火事で両親を失い男爵家の養女となったマリーは、男爵の息子で、大火の中から自分を救い出してくれたアドリアンを本当の兄のように慕っていた。しかし社交界デビューをした日の帰り道、彼に突然唇を奪われてしまう。さらに、「他の男に触れさせた罰」と、淫らな行為はエスカレートしていって…。そんな中、マリーは不穏な噂を耳にする。過去の山火事を起こした犯人は、ほかでもないアドリアンであるのだと――。
マリー
幼い頃に山火事で両親を失い男爵家の養女となる。養父や義兄に恩返しをしたいと思っているが…。
アドリアン
男爵家のひとり息子。山火事からマリーを救い出す。
「お前はやはり、身体に教え込むしかないようだ」
アドリアンは力任せにマリーを抱き寄せると、遠乗りのときのように息がかかるほどに唇を寄せた。
「さあ、避けてみろ。今度はできるはずだ」
しかし、その言葉と共に、抗う暇もなく唇が塞がれていた。拒むどころか、あっという間にその行為を受け入れ、自分の口内に兄の舌を導いてしまう。
しばらく激しく水音を立てながら、お互いを貪り合う。唾液で喉の奥が詰まってむせ込んでも、なかなかやめることができなかった。
一度唇を離すと、兄は厳しい口調で言い放つ。
「避けろと言ったはずだ、どうして言うことが聞けない」
そんなことを言われても無理だ。目の前に兄がいると思えば、身体が勝手に反応してしまう。
鼻先がくっつくくらい間近で囁かれると、切なさに胸を突かれて苦しくなる。マリーは胸の痛みを少しでも和らげたくて、いつしか返事の代わりに自分から唇を重ねていた。
すぐに舌先が激しく触れ合い、ぐちゅぐちゅという水音とやるせない語らいが再開される。マリーは自分がどんなにこの瞬間を待っていたかを悟った。
唇が触れ合うたびに、舌で互いを深く味わうたびに、新しい甘さが胸に浮かんでくる。
心を巣くっていたわだかまりさえ、どこかに吹き飛んでいた。
「もっとひどくされたいのか?」
熱い吐息が耳元にかかる。アドリアンは、マリーの耳たぶから首筋、そしてレースに縁取られた胸元まで、唇で辿っていった。くすぐったさだけではない不思議な感覚が広がっていく。
「……お兄さま?」
マリーの胸を飾っていたリボンが、アドリアンの長い指で静かに解かれる。低く響く声が素肌の上をなぞっていった。
「避けなくていいのか?」
あっという間に胸元がはだけ、小さめではあるがかたちのいい乳房が露わになる。
「えっ、お兄さま……やめて!」
マリーは慌てて両手で前を隠そうとした。しかし、すぐに手首を掴まれてしまう。
「本気で避けてないだろう? すぐに振りほどけてしまうぞ」
「でっ、でも……そんな」
これまで裸を見せたことがあるのは、サラひとりだけだ。着替えも入浴も彼女だけが手伝ってくれたし、そもそも親兄弟とはいえ異性には見せるものではないと教えられていた。
真っ赤になって逃れようとする彼女を、アドリアンは静かな声で諭す。
「嫌ならば、もっと強く拒め。それができたら許してやる」
アドリアンはそう言うと、胸を覆っていたマリーの腕を強引に振りほどいてしまう。そして瑞々しい膨らみにじっと見入った。
「いっ、嫌……」
兄が自分の胸をじっと見ている。それを目の当たりにして、マリーは恥ずかしさのあまり頬を紅く染めた。
このまま見つめ続けられたら、首筋から身体全体が上気していきそうだ。
「早く避けてみろ」
「……あっ……」
片方の胸をそっと撫でられる。いきなりの刺激にマリーは小さく声を上げた。
「自分から誘ってどうする、そんなことだからつけ込まれるんだ」
「あっ、ああ……」
くすぐったいだけではない、もっと別の深い感覚がピンとそそり立ったその場所から生まれている。マリーは座席に横たえられ、両胸に優しく密やかな愛撫を受け続けていた。