ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

狡猾な被虐愛

狡猾な被虐愛

著者:
葉月エリカ
イラスト:
藤浪まり
発売日:
2020/06/03
価格:
700円(税抜)
 

ああ、姫様……俺なんかに、こんなご褒美を……っ

子爵令嬢の小早川環は、父の借金のせいで没落し、遊郭に売られてしまう。初客として現れたのは、かつての下男で、初恋相手でもある相馬圭吾だった。今や実業家として成功した彼は、大金を支払い環を身請けする。だがそれは、妻や愛人にするためではなく、環にふさわしい伴侶を見つけるためだという。昔のように「姫様」と呼び、嬉々として下僕のようにふるまう相馬。縮まぬ距離に傷つく環だが、深夜の浴室で、己に向けられる変質的な欲望を目の当たりにし――!?

卑屈な忠犬実業家×素直になれない没落令嬢、罪と悔恨で歪んだ主従愛 !

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登場人物紹介

小早川環(こばやかわ・たまき)

小早川環(こばやかわ・たまき)

元子爵令嬢。身請けされた後も、主人としてしか見てくれない相馬の態度に傷つくが……。

相馬圭吾(そうま・けいご)

相馬圭吾(そうま・けいご)

下男として環の世話をしていたが、ある出来事により屋敷を追い出された。今は実業家として成功。

お試し読み

「そうです。俺が悪いんです」
 出し抜けのことだった。
 相馬がその場に膝をつき、環の膝にすがりついた。
「きゃっ……!?」
 環はよろめき、尻もちをついた。幸い布団の上だったので痛みはないが、考えようによっては、ひどく危険な体勢だ。
 熱に浮かされたように、相馬はまくしたてた。
「許してください。俺はまた悪いことをしました。姫様のあの声を思い出して、車の中で……自分でしてしまいました。二度も」
「……は……?」
 間の抜けた声が無意識に洩れる。
 この期に及んで、一体どういう告白なのか。そもそも環の理不尽で一方的な責めに、『俺が悪いんです』と謝る意味もわからない。
「止められないんです。姫様のおそばにいるだけで……その目で見られるだけで、俺は盛りのついた犬になってしまう。何度でも昂るし、何度でも出せる。自分でも気味が悪いくらいに。俺がこんなだから、あなたをいやらしい目で見てばかりいるから、姫様もおかしくなったのでしょう? 俺と一緒に、おかしくなってくださったのでしょう?」
「相馬……」
 首筋がふつふつと粟立った。
 まただ。
 環に自慰を命じられ、達した直後、相馬は『姫様が見ていてくださったから』と壊れたような笑みを浮かべた。
 普通ならありえない屈辱を、悦びに変えてしまう男。
 その男の頬を、自分はさっき、思い切り打ち据えた──。
「姫様は、『不公平』だとおっしゃいましたね」
 環の膝を抱え込んだまま、相馬の体は明らかに熱を上げていた。
「本当にそうです。俺ばかりが勝手に気持ちよくなって、いい目を見ているんです。ですから今夜はお返しします。姫様がなさろうとしていたことのお手伝いをさせてください」
「……あっ……!?」
 足の先に、ぬるっとした温もりが触れた。
 環の右足を両手で捧げ持った相馬が、親指の爪に口づけ、さらには指そのものを口内に含んだのだった。
「なっ……何をしてるの、馬鹿!」
 背後についた腕が震えた。
 赤ん坊がちゅくちゅくと乳を吸うように、相馬は足指をしゃぶっていた。指の股にまでねろりと舌を這わされて、環の声が裏返る。
「やめなさい、そんな、汚い……っ」
「綺麗です」
 くぐもった声で相馬は言った。
「姫様のお体は、どこも綺麗です……甘い香りのするお菓子のようです」
 正気とは思えないことを口走り、相馬は残りの指も一本ずつ順繰りに舐め回した。最後の小指を軽く甘嚙みされて、全身がびくんっと震えた。
 ──なんだったのだろう、今のは。
 脹脛にまで駆け抜けた、微弱な静電気のような。
 戸惑っているうちに、相馬の唇が足の甲に移った。
 触れるか触れないかの、羽根で掃かれるような感触がさまよい、踝の少し上で止まる。かつて桜の木から落ちて、骨が折れた場所だ。
「ここ、痛みますか……?」
「ふぁっ……──!」
 押し当てられた唇から、艶のある声が直に骨を伝い、悪寒にも似た痺れが走った。
「これも俺のせいです。俺があの日、木登りをお止めできていたら……落ちた姫様を受け止められていれば、つらい想いをさせることはありませんでした。もう踊りもやめてしまわれたのでしょう? 姫様が舞われる姿は、あんなにも美しかったのに」
 ちゅっ、ちゅっ、と唇が触れては離れ、離れては触れる。
 そこは今、少しも痛くはなかった。
 痛み以上に耐え難い、未知の感覚が環を襲い、腰がもぞもぞと左右に揺れた。
「っ……あ……んっ……」
 忍んでも忍んでも、鼻にかかったような声が止まらない。
 腰の奥にじんと響く甘やかな感覚──おそらく、これが快感なのだろう。
 そうと悟った瞬間、環は混乱した。
 やはり、この体はどこかおかしいのではないか。
 自分で胸を揉んでも、乳首を弄っても、風がそよぐほどにしか感じなかったのに。
 足を舐められ、口づけられて感じるなんて、きっと尋常なことではない。
「ん、ふ……っ」
 足首から膝頭までを、相馬の舌が遡った。
 浴衣の裾がはだけてしまっていることに気づき、環は急いで搔き合わせようとする。
「隠さないでください」
 環の手を、相馬はやんわりと押さえた。
「見せてください。もっと上まで。俺が、『不公平』でなくして差し上げますから」

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