ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

勝負パンツが隣の部屋に飛びまして
  • yondemill

勝負パンツが隣の部屋に飛びまして

著者:
春日部こみと
イラスト:
白崎小夜
発売日:
2018/04/04
価格:
660円(税抜)
 

お腹も心も身体もすべて、永遠に僕が満たそう。

風に飛ばされた勝負パンツがきっかけで、美貌の隣人・柳吾と仲良くなった桜子。説教癖はあるものの、慈愛に満ちた笑みを浮かべて美味しい手料理をふるまってくれる彼は、まさに“女神様”。桜子のことは、腹を空かせたノラ猫としか思っていないとわかっているのに、どんどん好きになってしまう。膨れ上がる気持ちを抑え切れず、泥酔して帰った夜、桜子はついに彼を襲ってしまうのだが――。困ったように笑う柳吾は、桜子を絶頂に導くだけで終わらせて……。

世話焼きオカン系男子×疲労困憊腹ペコOL、パンツとご飯のラブコメディ!

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登場人物紹介

大正桜子

大正桜子

会計事務所で働くOL。明るく元気だが、うっかり者な上、食事を疎かにしがちで、たびたび柳吾に叱られている。

桃山柳吾

桃山柳吾

ベランダに飛んできた真っ赤なパンツが縁で、桜子に手料理をふるまうようになる。在宅の仕事をしている様子。

お試し読み

 今朝、桜子から『夕食は要らないです。今日、合コンなんです』とにこやかに告げられて、柳吾は妙にイライラしていた。自分一人のために一汁三菜の食事を作る気になれず、今日の夕食は簡単なパスタで済ませた。
 桜子と夕食を共にするようになって、一緒に食べなかった日がないわけではない。だが、その理由は仕事が遅くなるとか、付き合いで飲みに行くとかで、合コンなどという理由ではなかった。
 ──なぜ、僕はこんなにイライラしているんだ。
 隣の部屋の娘が合コンに行くからなんだというのか。行けばいいではないか。
 ──だがあの娘は筋金入りのうっかり者だから、酔っ払って前後不覚になり、気がつけば男の部屋に連れ込まれていたり……!
 そもそも合コンという日本語を知らなかった柳吾は、桜子から告げられた時は『そうか、気をつけて』などと言って穏やかに手を振って送り出してしまったのだ。
 だがその後ネットで意味を検索し、「何が気をつけてだ大たわけ!」とその時の自分を叱り飛ばしたくなった。
 あの粗忽者が、涎を垂らした狼の群れに放り込まれて、気をつけたところで、焼け石に水というやつだ。
 想像するだけで叫び出したくなるような妄想をベッドの中で繰り広げていた時、玄関のインターホンの音が鳴った。
 ベッドから起き上がりながら時計を見れば、既に深夜。
 こんな時間に訪ねてくる人間は、一人しか心当たりがない。
 柳吾は説教をかましてやる気満々で、玄関へと向かった。
 ドアを開いて現れたのは、果たして隣のおたんちんであった。
「りゅうごさぁあああああん!」
「うわ!」
 突進して抱き着いてきた桜子を、かろうじて抱き留める。全体重をかけてくるので、バランスを崩して倒れそうになったが、壁に腕を突っ張ってすんでのところで堪えた。
「危ないだろう! 桜子、君、酔っているのか?」
「えへへ〜りゅうごさんだぁ……」
 甘えるように擦り寄られ、彼女の甘い匂いにドキリとする。
「りゅうごさーん! 合コン行ってきたんです」
「知っている」
 酔っ払いの話に、むっつりと返す。合コンに行くと自分で宣言していたではないか。
 だが目の前の酔っ払いは柳吾の不機嫌な様子に気づくことなく話を続ける。
「全然ご飯美味しくなくって、柳吾さんのご飯が恋しくてたまんなくなっちゃいました!」
「合コンなどに行くからだ! 若い娘がけしからん!」
 自分でも理屈の通らないことを言っている、と思いながら叱れば、桜子は口を尖らせた。ピンク色の唇が柔らかく突き出されるのを見て、果実のようだな、と思う。
「若いから合コン行くんじゃないですかぁ! 若い内に相手探さないとぉ! きょうび、女も走って運命の人探さないといけないんだって、文乃ちゃんが言ってましたぁ! でも、私、運命は、柳吾さんがいいなぁ……」
 桜子の発言に、心臓がバックンと大きな音を立てる。
「な、なにを言っているんだ……」
 相手は酔っ払いだ、落ち着け。と自分に言い聞かせながら、柳吾は玄関のドアを閉める。
 すると腕を開いた体勢になった柳吾の胸に、桜子がポスリと入り込み、擦り寄ってきた。
「さ、桜子?」
「ん〜〜……」
「こ、こら!」
 酔っ払いの突拍子もない行動に、さすがの柳吾も動揺してしまう。制止の声を上げたが、桜子はまったく意に介さず、頬を彼の胸にすりすりと擦り付けクンクンと匂い始める。
「に、匂いを嗅ぐのはやめたまえ!」
「りゅうごさん、いいにおいぃ……」
「なっ!?」
 三十路を越えた男の匂いを嗅いだ挙げ句いい匂いだと言われて、この娘の突拍子もない行動に慣れた柳吾であっても狼狽する。だが腕の中の桜子が眠そうにとろりと目を瞑っているのを見て、やれやれと溜息を吐いた。
「まったく、この酔っ払いめ。ほら、桜子。ここは寒い。とりあえず、中に入りなさい」
 腕の中の桜子の肩を摑んで起こそうとすると、桜子はまた口を尖らせた。
「やだ」
「やだじゃない。ここでは風邪を引くから」
 すると案の定、桜子がブルリと身を震わせる。ほら見ろ、と桜子の肩を摑んで引き離せば、桜子は両腕を「んっ」と柳吾に向けて差し出した。
「抱っこして」
「…………はぁ!?」
 目を剥いた。何を言っているのだこのおたんちん!
「抱っこ」
「……! ……!!」
 おたんちんめ! おたんちんめ!
 おたんちんという単語しか頭に浮かばなくなった柳吾は、己の未熟さに悶絶したくなる。
 ──冷静になれ、冷静になるんだ。心頭滅却すれば火もまた涼し……。
 心の中で呪文のように唱え、衝動を抑えるように深呼吸を一つすると、桜子に菩薩のような慈愛の微笑を向けた。
「いいかい、桜子。妙齢の女性は恥や外聞という概念を知らなくてはならない。君は二十五歳の成人女性で、社会人として真面目に働く、素晴らしい自立した女性なんだ。そんな君が、幼い子どものように、抱っこをせがむなんて、おかしいだろう? それに、僕も三十二歳の成人男性だ。君より少しばかり年上ではあるが、だからといって決して親子ではないし、親戚の叔父さんと姪とか、そういう関係でもないのだし──」
「抱っこ」
 問答無用とばかりに、桜子は三度同じ言葉を繰り返す。
 柳吾は絶望して両手で顔を覆った。
 だが桜子は、その両手の指の隙間に己の人差し指を引っ掛けて、指と指の隙間を広げ、こちらの目を覗き込んでくる。
「りゅうごさん?」
 小首を傾げて問いかけられ、柳吾は指の間から睨みつけてやる。
「…………あざとい!」
 しかし桜子はあくまで自分の要求を呑ませようとしてくる。
「抱っこは?」
「〜〜〜〜ッ、ああっ、もう!」
 唸り声を上げて柳吾はついに白旗を上げた。

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