ソーニャ文庫

歪んだ愛は美しい。

断罪の微笑
  • yondemill

断罪の微笑

著者:
宇奈月香
イラスト:
花岡美莉
発売日:
2013/07/03
価格:
620円(税抜)
 

お前の体に聞いてやる。

双子の妹マレイカの身代わりとして焼け落ちる城に一人残った王女ライラ。そんな彼女の前に、反乱軍の将で、かつてこの国に捕虜として囚われていた亡国の王子カリーファが現れる。過去、マレイカに虐げられた彼は、恥辱の恨みを晴らすため、別人と知らぬままライラに呪詛を施し薄暗い地下室で凌辱し続ける。しかしある日、ライラこそが過去の凄惨な日々を支えてくれた初恋の人だったと知り――。謀略に歪まされた純愛の行方は?

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登場人物紹介

ライラ

ライラ

存在を消されていた王女。双子の妹マレイカを助けるために、身代わりとなるが……。

カリーファ

カリーファ

かつてライラの国に捕虜として捕えられていた亡国の王子。マレイカに激しい怒りと憎しみを抱く。

お試し読み

(何だ、この感じは)
 たまらない高揚感の影となって寄り添う罪悪感がある。王女を穢す歓びに満たされているはずなのに、あの顔を見る度にちらつく幻影がカリーファを責めた。
(──ライラ)
 違う、この女はマレイカだ。何度も自分に言い聞かせ、憎しみを燃え滾らせた。
 言動すべてを疑ってかかれ、何も信用するな。周到な女が本性を見せるまで追いつめるのだ。
 不快な感情に苛立ちながら夜着を羽織る。立ち上がった振動でマレイカが目を覚ました。
「……あ。ごめんな、さい」
 背中にかけられた謝罪。一瞬そこにライラがいるような錯覚に瞠目し、振り返った。
 目を見開くカリーファに、まだぼんやりとしていたマレイカも、ハッと正気を取り戻すと目を逸らした。
「なぜ詫びた」
「……もうしわ」
「言うな」
 それはライラの口癖だ。
 鋭い一喝に、マレイカの肩が跳ねた。──苛々する。
 不遜と高慢でできている女が軽々しく謝罪をするなどありえない。ましてや青ざめて口籠るなど、……まるでライラではないか。
 感情の乏しい表情、謝罪を紡ぐ唇。覇気のない瞳。何もかもが記憶と違う。それらは否応なく十年前に感じた疑念を思い起こさせた。
 ライラは存在していたのではないか。この瞳の色から考えられる結論は、彼女がマレイカと近しい血族ということ。だとすれば、自分はとんでもない間違いを犯しているのではないだろうか。
 今、目の前にいるのがマレイカではないのだとしたら……。
(しっかりしろ、また騙されたいのか)
 もうひとりの自分が惑わされるなと叱咤した。それでも堰を切って溢れた疑念が口をついた。
「お前は、誰だ。本当にマレイカなのか」
 掠れた問いかけにマレイカはピクリと肩を震わせ、「……はい」と肯定した。
 嘘だ。と直感が騒いだ。ドクン…と鼓動が脈打ち、抱いた疑念が限りなく真実に近いことを確信する。
「何を隠している。なぜ今、肯定した」
「陛下が問うたからです」
「違うな、マレイカは」
 そうだ、マレイカが従順であるわけがない。カリーファを下賤と嘲笑った女が、矜持を曲げてまでカリーファに服従するはずがないのだ。
 よく考えろ、自分の中でライラの存在を消した発端はどこだ。
 心臓がドクドクとうるさい。ライラかもしれないという期待とマレイカへの警戒心で今にも叫び出しそうだ。動揺を隠しマレイカの頤を持ち上げると、見据える距離を縮めた。
 マレイカは揺れる眼差しに力を込めてカリーファを見返した。
「……私はマレイカ。マスウード国王女です」
 思い出せ、マレイカの口調はもっと高慢だったはずだ。
「隠し事はないと申すか」
「はい」
「よかろう、ではお前の体に聞いてやる」

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